マダムNの俳句手帖

自作俳句の記録ノートです。

謹賀新年 令和六年正月(この度の震災で被災された方々には心よりお見舞い申し上げます)。


謹賀新年

よき年となりますようお祈り申し上げます
本年もよろしくお願いいたします

この度の震災で被災された方々には
心よりお見舞い申し上げます
くれぐれもご自愛くださいませ

 令和六年正月


元旦の朝、いつもの指定席(非常階段)で日の出を待ちました。

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雲の多い状態でしたが、御来光を拝むことができました。

写真のぼかしが下手ですね。

ここまで昇るまでに、お日様の行く手を邪魔するかのように幾重にも雲がかかりました。

ところが、お日様が昇るごとに、それらの雲の縁が次々と銀色から金色に輝きました。

すばらしい光景でした。

次の写真は元旦の午後3時ごろ、ベランダからです。この写真には手を加えていません。実際には全体にもっと明るい感じでした。

gantan2024.1.1

元旦に作った句。

初空の星のひかりや風荒[すさ]び

初空を侵すが如き雲ありて

雲の縁つぎつぎ煌めく初日の出

雲透かす初日の清く円[まど]かなり

夫[つま]と飲む珈琲香つて年明くる

大晦日の夜、ベランダに出ると、夜空に雲のあるのがわかり、その中で瞬く星一つ、きよらかに見えました。風が強く、雨も降ったのかどうか下に見える駐車場がいつもより黒く見えました。

御来光拝めるかしらと心配になりました。最初の句はそのことを詠んだものです。

車で浮羽郡へ 三句

道すがら子とくぐり見る秋茄子(なすび)

秋茄子(なす)の黒く照り合ひ列なせり

秋茄子や花うす色に地の湿り


みつみつと熟るる歓び枝の秋

みつみつと熟るる苦しさ枝の秋

実を裂いて落ちてまろんで秋の雨

熟るる地の秋蝶瞬(またた)く草の陰


体調悪し 二句

枕辺に子が甘えくる夜長かな

枕減る寝や秋の燈(ひ)を子がともし


秋夕焼けんらん豪華は恐ろしき

秋夕焼神の御召しは裾濃(すそご)なり

秋の蚊のふれては触るる壁づたひ

満月や苛(さいな)み洗ふ筆の先

一葉して昭和の女があがき死に

喪こごろや栗の甘きを尊めり

さし出でし白蛾かはせり月の下

台風圏燭光芽ばゆる紺の域

台風圏燭のひかりに家族の手

濁酒(にごりざけ)のむほど見ゆる古りしこと

木犀にゆきずりの息深くする

露草の青く光れる草の中

露草の瑠璃が点々秋を告ぐ

いよよ肥え金魚舞ひ棲む水の秋



紅茶と子供たち 二句

初紅茶じぶんでミルクを子らの秋

行秋の紅茶に火照る顔五つ



宇佐 七句

対岸に立つ大鳥や菱紅葉

秋汐に山すそぬれて輝けり

国東の海の香れる葡萄園

かりそめの色世を染めて秋夕焼

山嶺(れい)を数へし先に月りんと

大比売(ひめ)の山あり月は黄を強め

宇佐の月兔(うさぎ)半身くつきりと



初出: 個人誌「ハーモニー」(平成4年1月30日)

屋根近く舞つてやさしき子燕ら

身仕舞を正さで柔し燕の子

まな板や飛魚とびし海の果て



八幡に行く 二句

相歩く帆柱山(ほばしら)のもと夏深し

籐椅子に座つて語りぬ息近く


妹産科へ緊急入院、点滴続く 一句


生まれきて伯母が立ちたる夏野見よ



姪誕生 三句

夏雲のふつくり浮かんで姪うまる

日盛りの子となり初めし産湯かな

いのち今うまれしばかり夏の赤子(やや)



ベビー・ベッドの傍らで 三句 


まほらから落ちし疲れか夏布団

夏布団いのち定まる刻々と

ほのかなるいのち豪華に夏布団



祐徳稲荷神社 三句

緑陰に尼となりにし万子姫

岩壁に貫きし死や岩清水

夕涼や社(やしろ)を伝ふ裾さばき



薔薇しげく薔薇の限りを散りにけり

白薔薇の音階の如く崩れけり



初出: 個人誌「ハーモニー」(平成4年1月30日)

子供たち 三十六句

窓麗(うら)らランチの子らの皿ひかる

道草の少女うららか頬澄めり

勝鬨(かちどき)の面の艶なる武者人形

大粒の瞳(め)でソフト食ぶ子供の日

鯉のぼり挑むがごとく泳ぎをり

神経の細さ似る子よ夏帽子

梅雨冷や迎への子らの頬白く

爪噛んで夜店の玩具見つむる子

叱られ児飯の豌豆(えんどう)ほじりけり

そばかすがキツスを待つや麦藁帽

通信簿閉じて眉寄せ団扇(うちわ)とす

通信簿閉じてまばゆい夏斜面(なぞへ)

朝顔のいろ報せ合ふ四人の子

汗ぐめる頭(つむ)寄せ合つて子の世界

白昼をこもつて遊びぬゼリーすずし

スプーン立てクスクス笑ひや子の素足

婚家(か)の香沁みし夏着やグリム読む

木のぼりの娘(こ)落ちて泣いて夏は果つ

ゆで卵おほきく食べぬ日焼けの子

休暇果て胸そらし刺す名札かな

赤子背に泣く子と踏みし秋道よ

満月に子の肌寄せて道歩き

風邪の子に蜜柑を焼きし夜寒かな

きのふ石けふ団栗(どんぐり)や子のポケット

額(ぬか)の髪あまく馨る娘(こ)赤のまま

息子の手小さかりけり赤のまま

この世にて抱く間も惜しみ赤のまま

いそしんで何故か哀しや赤のまま

炊き出しの意気極まらば山車(だし)近し

神輿待ち野宴なれば土匂ひ

一念にもがいて駆くる運動会

こゑの中ほろと転んで運動会

あの靴が少し重きか運動会

吹き鳴らす笛師の胸に運動会

風吹くや薄日に了る運動会

運動会家路を辿る埃(ほこり)の子



初出: 個人誌「ハーモニー」(平成4年1月30日)

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Michal JarmolukによるPixabayからの画像


同人誌「日田文學 55号」に俳句を提出すると決めたまではよかったものの、何せ我流俳句、一旦検討し出すと頭が痛くなってくる。
そんなわたしに励ましの言葉をくださったかたがあり、ブログをしていてよかったと切に思った。それで、冷静な頭に戻り、これまでつくった中から選択したのが次の25句。


回転木馬 二十五句

つくねんとぼた山のあり春の雨

垂れ込めて花菜のひかり浮かびたる

勝鬨(かちどき)の面の艶なる武者人形

鯉のぼり挑むがごとく泳ぎをり

神経の細さ似る子よ夏帽子

木のぼりの娘(こ)落ちて泣いて夏は果つ

炊き出しの意気極まらば山車近し

神輿待ち野宴なれば土匂ひ

一念にもがいて駆くる運動会

こゑの中ほろところんで運動会

まな板や飛魚飛びし海の果て

日盛りの子となり初めし産湯かな

秋茄子の黒く照り合ひ列なせり

秋の蚊の触れては触るる壁づたひ

台風圏燭のひかりに家族の手

国東の潮の香れる葡萄園

秋汐に山すそぬれて輝けり

山嶺を数へし先に月りんと

大比売(ひめ)の山あり月は黄を強め

宇佐の月うさぎ半身くつきりと

貴婦人の衣装の如き百合活けぬ

大輪の白は深んで百合豪奢

見遣るたび未知の白なり百合の花

少年にゆかた短し宿の春

屋形船泊(は)つる冬川朝の目に


下からの2句は、昔つくった次の10句の中から採った。

日田温泉 十句

ゆあみして父母(ちちはは)と酌む夫(つま)の春

かん酒に姑(はは)茜さし三隈川

少年にゆかた短し宿の春

ゲヱム待ち少女ゆざめの宿は深(ふ)く

宿に寝て舅(ちち)のしづかさ水仙花

また覚めて初夢分かつ湯の火照り

初泣きの児童矜持は大きかり

屋形船泊(は)つる冬川朝の目に

枯山の社(やしろ)の途を子ら駆けぬ

せせらぎの輝くを見し三日かな

「少年にゆかた短し宿の春」という句は夫方の甥をよんだものだが、思春期に入るまえの少年独特の危うさ、みずみずしさを表現したいと思った。気に入っていた句だったので、なんとか入れたいと考えた。また、一応候補に挙げたのは、次の諸句だった。

髪洗ふ瞑目のとき過ぎる相

初空に同じ足音朝刊来

授かりしものを孕まん寒卵

姑嫁たがへてむかふ初鏡

大宰府は底冷えの町久女の忌

足のうら冷たき真夜や水仙花

天からの贈りものなる春の雪

痴れ言の父の面影梅雨深く

最後に挙げた句は、「痴れ言の父の面影月見草」を改作したものだが、個人関係が露出しすぎている気がして採らなかった。そうした句、感情が出た句、卓上句は姿を消した。
個人的には、「叱りつつまた鬼女と化し大西日」なんてのも面白いと思ったが、激しすぎて他の句との均衡を破ると感じ、候補にも挙げなかった。
それから、これは戦略としてだが、百合の句ばかり集めたものも一緒に送って、いずれかを同人誌主幹に選んでいただくことにした。好みに添わないと落とされ、全然掲載されないことになるので、第二希望まで送る癖がついてしまったのだった。
百合の句は出来にバラつきがあるものの、テーマが一貫しているので、そちらを採られる可能性もあるかと思う。
百合の句には他に「除夜の鐘鳴つて白百合開きけり」などという句もあり、実際に除夜の鐘が鳴り終わる頃に開きかけたのだが、作為的に感じられるのが皮肉だ。季重なりでもある。


百合の花

ふつと閉じ四方指したる百合若き

咲きそめて香気清(す)みさす小百合かな

百合の花ほのひらく度かほりきぬ

百合なれば莟の全てひらきけり

奥の力(りき)真白に放つて百合ひらく

花がめに降りハツハツと百合咲きぬ

青やかに蘂を含める百合白く

白百合は花粉こぼして精気尽き

枯るるまで高く香りし百合の花

丘陵に白く浮かぶや百合の群れ

相眺めて百合の名知るやカサブランカ

貴婦人の衣装の如き百合活けぬ

大輪の白は深んで百合豪奢

見遣るたび未知の白なり百合の花

わが魂(たま)の谷あひの色百合白き

百合の花見果てぬ夢の深まりて

近頃では、カサブランカは見かけなくなった。カサブランカに似ているけれど、頭が垂れていない別の名の百合をよく見かける。名は何だったか。
わたしは頭を垂れている百合のほうが好みだ。花屋さんに鉄砲百合が出ていたので、新しいいい句が次々に出来ることを期待し、2本買ってきた。これを書いている今は、まだ莟のままだ。
咲くのもそろそろかと思って、楽しみに見ている。全部で8つある莟のうち、一つが卵でも孕んだみたいにふくらみ、先のほうがほのかに割れてきた……
同人誌に提出が終れば、次は短編小説が待っている。すぐにとりかからなくては、来月中に完成できなくなるだろう。夏バテなんていっていられない。

 追記:
「日田文學 55号」(江川義人編集、河津武俊発行、平成19年9月5日)に掲載されたのは「回転木馬」だった。


初出: 「同人誌提出作品〜俳句『回転木馬』」『マダムNの覚書』。2007年7月28日 (土) 14:19、URL: https://elder.tea-nifty.com/blog/2007/07/post_dc2a.html

創作の計画立てし二日かな

ここ3年ほど、新作能の執筆にチャレンジしている。初めてということで、自分を甘やかしてきたが、できれば年内に仕上げたいと考えている。昨日、そのための計画をざっと立てた。

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iPadで撮った月。どうしても白っぽく写ってしまうが、金色に近い濃い色の迫力のある月だった。


名月を探して階段(きざはし)下りにけり

仰ぎ見る月の面輪の尊さよ

金色(こんじき)の月のある夜(よ)の読書かな

双の木の競ふが如き花吹雪

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元旦に、特等席(非常階段)から撮影した初日の出です。ガラケーでの撮影なので、これで精いっぱい。

当市の日の出は7時17分となっていましたが、わたしがマンションの非常階段から撮影したのは7時48分でした。
雲がかなりあったので、初日の出をここから拝むのは無理かもしれないと思いましたが、雲を透かして太陽の輪郭がくっきりと見え始め、雲と雲の間に円い姿全体が現れました。
そこで初一句。

初日影雲を透して円きかな

望の夜の暗き御空や星在るも


今年の中秋の名月は今日ですが、こちらは曇っていて拝めそうにありませんでした。かろうじて、星が一つだけ出ていました。夫に残念だと連発して、わたしは家事の続きを始めました。

ところが、今日はたまたま娘が残業で、そしてたまたま夫が休日で、まだバスはあったのですが、迎えに行ったのです。

帰宅した夫に「月、出ていなかったでしょ?」と訊くと、夫はにやりとして「いや、出ているよ」といいました。駐車場に出た夫は、わたしの言葉を思い出してすぐに上を見たそうです。すると、そこに月があったとか。

「そこに月があったって……月、出ているの?」と驚き、ベランダに出ると、ベランダからは見えにくく、雲もあったので、すぐには月がどこにいるのかわからなかったのですが、しばらくしたら雲の陰から見え出しました。そして、月の周りの雲がいつの間にかなくなり、綺麗な月を拝むことができたのです。

杉田久女の俳句に「椅子涼し衣(そ)通る月に身じろがず」(杉田久女『杉田久女全集第一巻』立風書房、1998)という句がありますが、わたしも身じろぐことができませんでした。

お月様にじっと見つめられ、何か高貴な言葉で語りかけられているような気がしました。夫も「かなり強い光だね」といいました。普段も出ている月ですが、改めて、その存在感に感動しました。そこでまた俳句を作りましたが、難しいですね。


名月は雲のまにまに遊泳し

名月の雲を統(す)べたる光かな

雲退きて名月の黄の濃かりけり

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